2013年5月15日水曜日

2013年 ICU国際栄養調査、開始です。

万国旗
 この度、S総合病院NSTでは、ICU国際横断栄養調査に参加します。Canada Queen’s大学Dr.Daren Heylandが中心となり、2年毎に行っているものです。

 ICU入室後48時間以内に人工呼吸を開始し、72時間以上ICUに滞在した成人患者を対象とする、観察研究です。栄養の開始時期や内容などについて、連続20症例、最大で12日間調査します。患者さん個人が特定されることはありません。

 当院は、田舎の中小規模の病院です。オープンICUなので、各科医師が担当される、栄養療法の現状把握は、これまで困難でした。今回の参加を契機に、当院ICUの栄養療法の現状を把握して、全世界の参加施設との比較から、現在の問題点を明らかにするよう努めます。その結果、各科医師・ICUスタッフ・NSTの全体で栄養に対する意識が一層高まることを期待しております。

 今回のエントリーには、世話人の先生から多大なるご支援をいただきました。見知らぬ田舎医者の相談に、気さくにご対応くださり、本当に感謝申し上げます。期間は5月から10月いっぱいで、まだ始まったばかりですが、最後まで完走できるよう頑張ります。

 参加準備期間中には、偶然時を同じくして、Sみた先生がICU栄養プロトコールを地道に作成されており、調査開始日に間に合って完成しました。ICUスタッフも、準備に快く付き合ってくださいました。



各科医師のみなさま、
プロトコールをふるってご利用ください。

「Sみたプロトコールで行くよ」

と言っていただければ、いろいろ自動になります。

では、さまざまなかたに対してですが、宜しくお願い申し上げます。ICU看護師団のご協力は、いわゆる「すし適応」であると承知しております。

ICU国際栄養調査を主催する、Critial Care Nutritionのサイトです。

(文責Ⅰ)

2013年5月14日火曜日

栄養チューブが閉塞したら

 閉塞直後であれば、まずは水道水フラッシュを試みます。2.5~5mlなどの小さいシリンジを用いると、力が伝わりやすいので、大きいシリンジを使うよりも成功する可能性があります。
それでも開通しなければ、胃内留置なら挿入が比較的容易ですので、速やかな交換をお勧めします。

 十二指腸~小腸に留置している場合は、即交換する心意気があれば別ですが、胃に挿入するよりは手間ですので、透視下にガイドワイヤーが通るか試みる手があります。

 筆者は0.032inchのラジフォーカスのガイドワイヤーを使用しています。ベッドサイドで盲目的に行うのは危険と考え、必ず透視下に行ってます。一度突破すれば、続く水道水フラッシュでリカバリーできる可能性があります。

 ほかには、逆にPHを上げるために重曹水でロックする方法も報告されています。どのような方法でも再開通しない場合は…あきらめてチューブを交換しましょう。(文責I)

「酢水ロック」を再考しましょう。メンテナンス編。

チューブのメンテナンス
チューブの開存性を維持するために、水道水によるチューブ内腔の定期的なフラッシュが必要です。


酢水ロックとは


フラッシュ以外に、開存性を維持する工夫の一つとして「酢水ロック」があります。酢酸の抗菌効果によりチューブ内腔の衛生状態を維持する方法です。汚染されたチューブをきれいにする効果はありませんし、すでに閉塞している場合は無効です。

日本静脈経腸栄養学会が2011年に出版した、専門療法士や認定医制度の教科書、「静脈経腸栄養ハンドブック(南江堂、2011年出版)」p189に以下の記載がありました。

 ”投与終了時には閉塞と細菌増殖(特にカビ)を防止するため、少量の白湯で回路をフラッシュする。1日の最後にはチューブ内の殺菌を期待して、10倍希釈の食酢を充填する場合もある。”

具体的には、水道水で十分フラッシュした後に、「市販の食用酢を水道水で10倍程度に希釈したもの」を注入し、クランプします。

重要なのは、酢水を注入する前に、水道水で十分にフラッシュして、栄養剤を洗い出しておくことです。栄養剤が残った状態で酢水ロックを行うと、逆にカード化が生じてしまい、チューブが閉塞する恐れがあります。


最近は、逆にpHを上昇させて、凝固を予防する目的で、1%重曹水をフラッシュや充填に用いて、予防のみならず閉塞にも有効であったという報告があります。

「1%重曹水による経腸栄養チューブ閉塞防止に関する基礎的および臨床的検討」 田渕裕子 大石雅子 辻本貴江ら 静脈経腸栄養 Vol.26 No.4 2011



まとめ 


・半消化態栄養剤使用時はカード化対策が必須。
・チューブ閉塞予防法のひとつに10倍希釈食酢充填がある。
・食酢注入前には水道水で十分フラッシュを。



「やるならば 正しくやりましょ 酢水ロック」


スライド1

スライド2

 (文責I)

「酢水ロック」を再考しましょう。まず、チューブ閉塞の機序。

「横浜市立大学で、栄養チューブの閉塞解除を目的として25%酢酸を注入した患者が死亡した」と、2013年5月1日に報道がありました。

S総合病院では、病棟によって、経鼻栄養チューブの閉塞を予防する目的で、10倍希釈した食酢(酢酸濃度として約0.5%)をチューブ内に充填している場合があります。

報道の件とは、目的・方法が異なりますので、問題はありませんが、この機会に、チューブ閉塞の機序、予防について、現在得られている知見を共有しましょう!!


チューブ閉塞の機序

チューブの閉塞は、薬剤投与による閉塞以外に、栄養剤に含まれている蛋白質のカード(curd)化によっておこります。
カード化は、酸によって蛋白質の構造が変化して、ヨーグルトのように凝集してしまう現象です。牛乳に酢を混ぜて作る、カッテージチーズのイメージです。


howto_milk_01_mainpic

胃腸内にあるチューブ先端は、胃酸や細菌が産生する有機酸類によって酸性となり、栄養剤中の蛋白質が変性凝集します。
いったん先端でカード化が起きると、更に上流側にも凝集が進み、チューブが閉塞してしまいます。



半消化態はカード化注意

栄養剤は窒素源の成分に基づいて成分栄養剤、消化態栄養剤、半消化態栄養剤、濃厚流動食に分類されます。窒素源はそれぞれ、成分栄養剤はアミノ酸、消化態栄養剤はペプチドですが、それ以外は蛋白質です。

経腸栄養で汎用される、半消化態栄養剤は、大豆タンパクや乳タンパクを窒素源としますので、カード化が起きます。一方、成分栄養剤、消化態栄養剤はカード化をきたさないため、チューブは閉塞しにくいとされています。

半消化態栄養剤は、日常的に最も汎用されますので、カード化対策は必須ですネ。


窒素源

●アミノ酸→成分栄養[エレンタール(医薬品)]

吸収良。チューブ閉塞なし。
味悪くフレーバー必要。脂肪が少ない。

●ペプチド→消化態[ペプタメン(食品)、ツインライン(医薬品)]

吸収良。チューブ閉塞なし。味悪く経口不可。

●蛋白質→半消化態[メイバランス等(食品)、エンシュア、ラコール(医薬品)]

消化が必要。カード化有。経口摂取適す。

チューブが閉塞しにくいからといって万能ではないですねぇ。栄養剤は適材適所の選択が必要です。
(文責I)

2013年5月7日火曜日

脂肪乳剤投与速度のおぼえかた

脂肪乳剤の投与速度は、

1時間あたり、体重の半分ml !!

50kgのかたは、25ml/hr

→20%イントラリポス100mlを4時間で投与。

外科代謝栄養学会のときに開催されるNST医師教育セミナーを、2009年に受講した際、井上善文先生がおっしゃってました~。

覚えやすいので助かります。 (文責I)

嚥下食ピラミッド

S総合病院での嚥下食ピラミッドを昨年作成したので、参考までに投稿します 
主な食事形態と嚥下障害の重症度の対応を図式化してます
下部には大まかなカロリー数を記載してます




2013年5月6日月曜日

脂肪乳剤のオキテ

当院では、脂肪乳剤として、

20%イントラリポス100ml(200kcal)を採用してマス。

末梢静脈栄養の際、手っ取り早く少量で投与エネルギーを増やすことができ、NPC/Nを上昇させるのに貢献します。中心静脈カテーテルからの投与も可能です。
しかし、注意していただきたいことがあります。

  感染に弱いという弱点です!!

杉浦伸一先生の「輸液療法のポイント」(ジェフコーポレーション)からの引用です。

 脂肪乳剤は、糖加アミノ酸輸液よりもさらに汚染に弱いことに注意すべきである。脂肪乳剤を小児に分割投与したことで、新生児5名が、エンテロバクターなどによる菌血症を発症し、うち2名が死亡した事例がある。

 この事例では、24時間以上にわたり、1本の製品から1~20mlを取り出して分割投与していた。分割使用時に注射針とともに汚染菌が混入して増殖し感染源になったと考えられている。

「血管内留置カテーテル由来感染の予防のためのCDCガイドライン2011年版」では、脂肪乳剤の投与に使用したチューブは、点滴開始から24時間以内に交換するよう勧告しています。

中心静脈カテーテルから投与する際は、フィルターよりも患者さん側の側管から投与し、使用後は、生食でフラッシュ後、脂肪乳剤を流していたラインを破棄してください。

脂肪乳剤のオキテjpeg

2013年5月5日日曜日

脂肪乳剤


目的は、
 ①必須脂肪酸の補充
 ②エネルギー補給
脂肪乳剤をうまくつかうことによって、高血糖や脂肪肝などTPNによる副作用を軽減できるといわれています。
裏技として、リン欠乏の際使うこともあります。

投与速度は
 0.1~0.15g/kg/時、 投与量;2g/kg/day 以下が分解酵素の関係で安全とされています。
 
 
たとえば体重50kgだと、20%イントラリポス100mL(200kcal)の場合、2.7時間~4時間、投与にかける必要がありますね。
 できるだけ末梢から投与し、TPNの場合は、フィルターの下から投与してください。

20%イントラリポス100mL投与する場合、おおよその投与時間





 

 
 

2013年5月4日土曜日

経腸栄養剤の選び方ー在宅医療では

 入院中、経腸栄養を単独で行う場合に、病院の経済的事情から、食品でオーダーするようお願いしましたが、

在宅医療では反対に、医薬品でオーダーするようお願いします。

またまた、井上善文先生の「経腸栄養剤の種類と選択」(フジメディカル出版)からの引用です。

 

 外来においては、食品の経腸栄養剤はすべてが患者負担となる。医薬品の場合には保険でまかなわれるため、患者の負担は少なくなる。従って、外来で処方する場合には医薬品を選択すべきであろう。また退院後、在宅で経腸栄養剤を使用する患者には、退院1~2週間前から医薬品栄養剤に切り替えて、慣らしてから退院させる場合も多い。

 

 S総合病院でも、退院後に在宅医療へ移行する場合、退院の数週間前から、食品→医薬品へ移行してくださっている先生が多いです。

経腸栄養剤は食品のほうが医薬品よりも種類が多いので、食品でうまくいっていた場合に、変更を検討するのは、ちょっとしたお手数ですネ。

そんなときは、お気軽にNSTにご相談くださいネ。


★汎用経腸栄養剤の互換性 食品→医薬品 
  • メイバランス→エンシュア、ラコール
  • アイソカルBag2K→エンシュアH
  • ハイネゼリー→エンシュアやラコールに半固形化補助食品(リフラノンなど使用)

経腸栄養剤の選び方ー経済的問題編

  本来患者さん本位で、いろんな意味でベストな選択をしたいものですが、病院が赤字になって一家離散となり、患者さんを診れなくなるようでは、元も子もありません。

 そういう意味では、お金の問題はどうしても避けて通れません。井上善文先生の「経腸栄養剤の種類と選択」(フジメディカル出版)からの引用です。

 

 医薬品を選択するか、食品を選択するかは、費用の問題で、医療保険制度に関連している。半消化態栄養剤で、医薬品に属するエンシュアリキッド、エンシュアH、ラコールなどと、食品に属する半消化態栄養剤との使い分けは、費用の問題がその判断基準になる場合も多い。

 

 入院中、経腸栄養剤単独で管理する場合には食品を用いる。これは、食事箋で処方することができるためであり、[食事の費用ー経腸栄養剤の費用]が病院の売り上げとなる。また、食事を処方している症例に対し、食品の経腸栄養剤を補食として処方すると、食事の材料費が余計にかかることになるため、売り上げが低下することになる。この場合には医薬品の経腸栄養剤のほうが有利である。

 

 上記をふまえて、S総合病院NSTからのお願いです。

 

  • 経腸栄養剤単独で使用する場合、特別な状況以外は、食品でオーダーをお願いします。
  • その場合、1日3食の食事を提供した場合の入院時食事療養費:640円×3食=1920円 でおさまる範囲が望ましいです。
  • 通常の食事に追加して、補食として食品の栄養剤を追加している場合、大量に飲み残しがないか、ときにチェックをお願いします(特にメイバランスミニ)。飲み残してる場合、本数を減らすか、NSTにご相談ください。

 

特にペプタメンAFは高額なので、可能であれば1日3パックにとどめ、それ以上使用したい場合は、安価な汎用栄養剤に切り替えが可能かどうか、今一度ご検討お願いします。

(オーダーがとっても高額になっている場合は、その都度お知らせしますね。)

 


★当院採用の高価な食品栄養剤 ベスト3 

 (1パック単位で個人購入価格を表示)

  1. ペプタメンAF 672円 1日3パックまでにとどめたいです。
  2. インスロー 588円 納入価の関係からは1日4パックまでOK。
  3. インパクト 472円 高リスク術前のみの使用に制限。


とはいっても、のっぴきならない事情があれば、患者さん本位の本数のオーダーで全く問題ありませんので、お気軽にご相談くださいネ。